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東京地方裁判所 平成5年(ワ)10600号 判決

原告

ピート・メテヴェーレス

被告

情報システム監査株式会社

右代表者代表取締役

橋本昌典

右訴訟代理人弁護士

中西義徳

北村行夫

澤本淳

川村理

駒宮紀美

林和男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原、被告間の雇用契約に基づく原告の従業員としての地位が平成五年一〇月二七日まで存続することを確認する。

2  被告は、無理な解雇をやめ、平成六年八月五日まで雇用契約を一か年間継続せよ。

3  被告は、原告に対し、金五〇〇万円を支払え。

4  被告は、原告に対するいじめをやめ、充分な仕事を与えよ。

5  被告は、原告に対し、金七五万五六〇〇円及び金八万八一五三円を支払え。

6  被告は、本判決言渡しに至るまで、原告を一般職員として取り扱え。

7  被告は、原告に対し、金一一三〇円及び一万七二〇〇円を支払え。

8  被告は、原告に対し、金一五四万〇九三四円を支払え。

9  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成四年四月、被告に次の約定で雇用された(以下、本件雇用契約という。)。

(月額基本給) 金三七万七八〇〇円

(雇用期間) 法務省の在留資格の許可日より一年間

(業務内容) 研究及び一般教育。コンピュータ技術者教育及び書籍の執筆、翻訳。コンピュータシステムの分析・設計及び開発。

右在留資格の許可日とは、平成四年一〇月二八日であるので、原、被告間の雇用契約は、平成五年一〇月二七日まで存続することになる(請求の趣旨1項関係)。

2  被告は、右雇用契約に基づき、平成四年四月から被告東京営業所で就労したが、被告は、原告に充分な仕事を与えず、原告に煙草の煙を吹きかける、原告の所持品を盗む、原告にうそやいいがかりをつける、無理な命令を出す、いやがらせをする、原告だけに規則を設ける、原告を排斥する、原告を迷わすために会社の業務等を隠す、不法にコピーしたソフトを使わせる、足りない設備や不健康な空気の下で就労させる、原告の名前をけなす、原告を怖がらせるために乱暴な言葉や行動を用いる、原告に恥をかかせる等のいじめ行為を行った。

右は、被告が原告を社員として正当に取り扱わない債務不履行であり、被告は、右各行為をやめるとともに、原告に対し、慰謝料金五〇〇万円の支払義務がある(請求の趣旨3、4項関係)。

3  被告は、本件雇用契約の際、原告に対し、平成四年度の夏季ボーナスとして基本給の二か月分である金七五万五六〇〇円の支払を約した。

また被告は、本件雇用契約の際、原告に対し、有給休暇を初年度は七日間与えると約したところ、七日分の賃金は八万八一五二円となるが、いずれも未払いである(請求の趣旨5項関係)。

4  原告は、平成四年一一月頃、被告から命じられた英文和訳の仕事のために必要な雑誌である「日経コンピュータ」の代金一万七二〇〇円を支払ったがこれは被告が支払うべきものである(請求の趣旨7項関係)。

5  被告は、平成五年七月四日をもって、本件雇用契約が終了した旨主張するが、原告はもう五〇歳にもなり、再就職は困難であり、無理な解雇は生活に大変な被害になるので、被告は、同日以降も雇用契約を継続し、原告を従業員として取り扱うべきである(請求の趣旨2、6項関係)。

6  被告は、平成五年七月六日、原告が被告会社に残置していた荷物を原告宅に送りつけて来たため、原告は、運送賃一一三〇円を支払わされたが、これは被告が支払うべきものである(請求の趣旨7項関係)。

7  被告は、本件雇用契約の際、月額基本給として金三七万七八〇〇円の支払を約したが、実際には、平成四年七月には全額支払わず、平成四年八月から平成五年三月までは金三五万二八〇〇円(月差額二万五〇〇〇円)、同年四月から同年七月までは金三五万四一〇〇円(月差額二万三七〇〇円)しか支払わなかったので、合計六七万二六〇〇円が未払いである。

その上、被告は、平成四年一一月には金一万三〇二六円、同年一二月には金一万五九七円、平成五年二月には金一万七三六八円、同年五月には金四万二〇九二円、同年六月には金五万〇一一七円、同年七月には金一四万四五五五円を給料から差し引いたので、合計金二八万二三五五円が未払いである。

更に、被告は、平成四年度の冬季ボーナスとして基本給の二か月分の金七五万五六〇〇円の支払を約したが、実際には金一六万九六二一円しか支払わなかったので、金五八万五九七九円が未払いである。

よって、合計金一五四万〇九三四円が未払いである(請求の趣旨8項関係)。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1については、業務内容の約定の点のみ認め、その余は争う。原、被告間の雇用契約日は平成四年六月であり、雇用期間は、同年六月三〇日から一年間との約定であった。

2  同2、3の各事実は、いずれも否認する。

3  同4については、被告の三谷康之取締役営業部長(以下、三谷営業部長という。)が原告に対して英文雑誌の翻訳を命じたことは認めるが、その余は否認する。

4  同5については、被告が平成五年七月四日をもって、本件雇用契約が終了した旨主張していることは認めるが、その余は否認する。

5  同6については、被告が原告宅へ、原告が被告会社に残置していた荷物を運賃受取人払いで送付したことは認め、原告が運送賃一一三〇円を支払ったことは不知。その余は否認する。

6  同7の各事実は、いずれも否認する。原、被告間では、基本給与と住宅物価調整手当を併せた金額が基本給として合意されていた。

三  抗弁

1  被告は、平成五年六月四日、原告に対し、同年六月三〇日をもって本件雇用契約を終了させたい旨申し出たところ、原告は、同年七月四日までにしてほしい旨申し出たため、被告はこれを了承し、よって原、被告間に、同年七月四日をもって本件雇用契約が終了する旨の合意が成立した。

2  被告は、平成五年六月四日、原告に対し、同年七月四日をもって解雇する旨の意思表示をした。その理由は、次のとおりである。

原告は、別紙(略)のとおり、勤務表や勤務記録表に虚偽の記入をし、またその記入を怠った。

被告は、原告に対し、翻訳やシステム設計の仕事を命じたが、原告はこれに従わなかった。

原告は、就業時にスーツを着用せず、靴も運動靴であり、寒い季節には、オーバーやマフラーも着用したままであった。原告は、就業時間中に新聞を読んだり、昼休み以外の時間に、被告会社が賃借りしていない松下電器産業株式会社(以下、松下電器という。)のSE研修所の空室を勝手に使用して昼食をとっていた。被告会社の三谷営業部長は、原告を富士通学院の講師として採用してもらうため、同学院を訪れたところ、原告は、以前に就職していた職場の悪口を並べたてたため、同学院の信頼を得られず、商談は不成立に終わった。原告は、被告会社では兼業が禁止されているのに、「ざべ」という雑誌に記事を連載していた。被告会社では、原告に対し、何度も外国人登録証の提示を求めたが、原告はこれに従わなかった。原告は、平成五年四月採用の新入社員の採用面接の際、おかしな表情をしたりして妨害行為をした。

原告の右のような執務態度に対し、被告の東京営業所の所長代理である新井晃(以下、新井所長代理という。)は、繰り返し注意をしたが、全く効果がなかった。

原告の右各行為は、就業規則二二項〈1〉h所定の「会社の承認なく会社以外の業務に従事したとき」及び同項〈1〉所定の「業務に関する命令、もしくは指示に不当に反抗し、あるいは社内規則を無視し職場規律を著しく乱したとき」との各解雇事由に該当する。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるので、これを引用する(略)。

理由

一  請求原因1の事実中、本件雇用契約で合意された業務内容の点、同4の事実中、被告の三谷営業部長が原告に対して英文雑誌の翻訳を命じたこと、同5の事実中、被告が平成五年七月四日をもって、本件雇用契約が終了した旨主張していること、同6の事実中、被告が原告宅へ、原告が被告会社に残置していた荷物を運賃受取人払いで送付したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  右当事者間に争いのない事実と、成立に争いのない(証拠・人証略)、並びに原告本人尋問の結果(但し、採用しない部分を除く。)を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  原告(米国籍、一九四三年一一月五日生)は、平成四年六月頃、職業安定所の紹介により、事務計算、技術計算の受託及びこれに付随するサービス、事務機械化の立案、プログラムの作成受託、コンピューターシステムの設計運用管理並びに監査業務、コンピューター要員教育並びにコンサルタント業務等を目的とする被告会社に雇用された。当初契約書は作成されなかったが、雇用契約の内容は、次のとおり合意された。

(業務内容) 研究及び一般教育。コンピュータ技術者教育及び書籍の執筆、翻訳。コンピュータシステムの分析・設計及び開発(但し、直属の上司の指示により、その他の職務を一時的に行わせることもあり得る)。

(就業時間) 〈1〉通常勤務 午前九時から午後五時三〇分

〈2〉フレックスタイム勤務 標準勤務時間 午前九時から午後四時三〇分(コアタイム 午前一〇時から午後四時)

但し、雇用開始日より三か月間は試用期間とし、その間は通常勤務とする。

(有給休暇) 初年度七日(但し、試用期間満了後に与える。)

(賃金) 月額基本給金三七万七八〇〇円。

但し、所得税、社会保険料及び親睦会費二〇〇〇円は、毎月給与金額より天引きする。

(賃金支払日) 毎月一五日締切の二五日支払。

2  原告は、平成四年六月三〇日から、被告東京営業所で就労を開始した。

平成四年から同年七月一五日までは、アルバイト勤務であり、翌七月一六日から正社員となり、同日から同年一〇月一五日までの試用期間中は、通常の勤務時間であり、翌一〇月一六日からフレックスタイム勤務に移行した。

被告会社の東京営業所には、所長代理の新井晃、斉藤勝男、原告及び中村桂子の四名の従業員がいた。原告は、新井所長代理が不在の際は、大阪本社の山本総務部長らの指示を受けることになっていた。

3  平成四年八月、原告のビザ更新のため、雇用契約書の作成が必要となり、同月八日、原、被告間に雇用契約書(〈証拠略〉)が作成された。同契約書には、雇用期間について、「法務省の在留資格の許可日より一年間」と記載された。他方、同契約書の約定内容の「その他」の欄には、「本契約の有効期間は、雇用契約成立後一年間とする」との記載もある。

被告会社では、平成四年八月一三日付で原告の採用理由書(〈証拠略〉)も作成し、これを法務大臣に提出した。

その結果、原告について、在留資格を人文知識・国際業務、在留期間を一九九二年一〇月二八日から一九九三年一〇月二八日までとする外国人登録がなされた。

4  平成五年五月二八日に至り、被告会社は、原告の雇用を継続しないこととし、原告にその理由等を説明した。原告は、右説明内容を書面化してほしいとの要望をなしたので、同部長は、同年六月二日、原告宛て書簡(〈証拠略〉)を発した。

そして、同月四日、被告会社代表取締役である橋本昌典は、原告に対し、同月三〇日をもって退職してもらいたい旨通告した。すると原告は、退職日を七月四日と訂正するよう要求したので、橋本は、これに応じ、雇用契約打切りの日を「平成五年六月三〇日」から「同年七月四日」と訂正した通知書(〈証拠略〉)を原告に交付した。

三  右事実を基に、請求原因1について判断するに、原、被告間に作成された雇用契約書(〈証拠略〉)には、契約内容の項目の冒頭に、雇用期間として「法務省の在留資格の許可日より一年間」と明記されているところ、同契約書は、原告の在留ビザ更新のために作成されたものであり、在留資格の許可が、原告の就労開始日である平成四年六月三〇日や同契約書の作成日である平成四年八月六日よりも後になされるであろうことは被告も十分承知していたものと認められるから、本件雇用契約の期間は、原告主張のとおり、原告の在留資格の許可日である平成四年一〇月二八日から一年間であったと認めるのが相当である。

四  請求原因2について判断するに、後記九1に認定のとおり、原告は、被告から命じられた翻訳やシステム設計の職務を、自らのやるべき仕事ではない、コンピューターやソフト、辞書等の備品が整っていないからできない、などといって理由もなく拒否し、またコンピューター技術の専門学校である富士通学院の講師としての仕事を紹介されながら、自ら非常識な発言をするなどして失わせたものと認められる。

また、原告の主張・供述する被告のいじめ行為なるものも、その存在が立証されたとはいえない(煙草の煙を吹きかける、原告の所持品を盗む、うそやいいがかりをつける、無理な命令を出す、いやがらせをする、原告を排斥する、原告を迷わせるために会社の業務等を隠す、不法にコピーしたソフトを使わせる、原告の名前をけなす、原告を怖がらせるために乱暴な言葉や行動を用いる、原告に恥をかかせる等の行為)か、被告会社に責任があると認められない(足りない設備や不健康な空気の下で就労させる等の行為)か、或いは、原告の不都合な言動を注意するためにとった相当な措置(規則を設ける)のいずれかであって、被告会社に本件雇用契約から生ずる債務の不履行があったとは到底認められない。

五  請求原因3について判断するに、原告は、本件雇用契約の際、ボーナスとして、基本給の二か月分が支給されるとの合意があった旨主張・供述するが、雇用契約書(〈証拠略〉)には、賞与について、「当社給与規定による」との記載があるのみである。そして、原告は、平成四年度の夏季ボーナスとして約一五万円の支給を受けた旨供述しており、右金員がボーナスであったかどうか疑問が残るが、原告の入社時期や勤務成績からして右金額が不当に低額にすぎるとは認められない。

また、本件雇用契約において、原告に有給休暇として初年度は七日を付与する旨合意されたことが認められるが、被告会社にその買上げ制度が存在することの立証がないのみならず、(証拠略)によれば、原告は、平成五年七月四日までに、既に七日の有給休暇を消化していることが認められる。

よって、原告の右主張はいずれも理由がない。

六  請求原因4については、成立に争いのない(証拠略)によれば、原告は、平成四年一一月二七日、株式会社日経BPに、雑誌代金として金一万七二〇〇円を支払ったことが認められるが、右雑誌は、原告の私物として購入したものと認められるので、被告会社にその支払義務はないというべきである。

七  請求原因5、6については、後記九「抗弁2に対する判断」の項で一括して判断する。

八  請求原因7については、雇用契約書(〈証拠略〉)には、月額基本給三七万七八〇〇円を支給するとの記載があるところ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠略)、原告作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分につき弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠略)によれば、原告に対し、平成四年六月三〇日から同年七月一五日までは、アルバイト料として金八万八〇〇〇円が支給され、同年八月から平成五年三月まで毎月、基本給与金三五万二八〇〇円、住宅・物価調整手当二万五〇〇〇円、合計三七万七八〇〇円が支給され、同年四月から同年七月まで毎月、基本給与金三五万四一〇〇円、住宅・物価調整手当二万五〇〇〇円、合計金三七万九一〇〇円が支給されたことが認められ、原告は、平成六年一月に至るまで右賃金額に異議を唱えたことはなかったことからすると、原、被告間では、本件雇用契約において、基本給与と住宅・物価調整手当を合計したものを月額基本給金三七万七八〇〇円とする旨合意した(但し、平成四年八月以降の分)ものと認めるのが相当である。

そして、(証拠略)によれば、被告が原告主張の金額を当該月(平成五年七月は、同年六月一六日から同年七月四日までの分)の給与から差引いたのは、フレックスタイム勤務に移行後、実働労働時間が所定労働時間に足りなかったために右不足分の減額をしたものと認められ、原告は、右減額についても、平成六年一月に至るまで異議を唱えたことはなかったことからすると、これを不当ということはできない。

また、原、被告間に賞与として基本給の二か月分の支払合意がなされたことを認めるに足りないことは前記のとおりであり、原告は、平成四年度の冬季ボーナスとして金一六万九六二一円が支払われたことを自認するところ、原告の勤務実績に照らし、右金額が不当に低額にすぎるということはできない。

九  抗弁2について判断する。

1  成立に争いのない(証拠・人証略)、並びに原告本人尋問の結果(但し、採用しない部分を除く。)によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉  原告は、平成四年七月一六日、被告会社の正社員になってから、毎日、勤務表及び勤務記録表に出勤状況を記入・押印することを義務づけられた。勤務表及び勤務記録表の記載は、被告会社が従業員の勤怠状況を把握し、賃金計算の基となる労働時間を管理する上で極めて重要なものである(原告については、平成四年一〇月一六日からフレックスタイム勤務に移行したのであるから尚更のことである。)が、原告は、新井所長代理が在室しないときなどに、勤務表及び勤務記録表に虚偽の記載をしたり、記入・押印をしなかったことがしばしばあり、平成四年七月一六日から同五年七月四日までの間に、別紙のとおり、勤務表への虚偽記載が合計一一回、記載懈怠が合計三二回、勤務記録表への虚偽記載が合計二四回、記載懈怠が一回に及んだ。右虚偽記載や記載懈怠は、新井所長代理らが何度注意しても改まらなかった。

〈2〉  原告の勤務態度については、被告会社の三谷営業部長や新井所長代理から、コンピューター・システムに関する情報誌や国際シンポジウムの講演資料の英文和訳を命じられることがあったが、原告は、和文英訳はできるが、英文和訳はできない、辞書も備えてくれないなどといって、ほとんどやらなかった。新井所長代理が原告の希望する辞書を買い与えても同様であった。

また原告は、コンピュータ・プログラミングの仕事を希望するとして、被告からシステム設計の資料作成の仕事を命じられても、そのような簡単な仕事はできないなどといってこれを拒否した。そして、被告会社には、原告の希望するコンピュータ・プログラミングの仕事をするためのコンピュータやソフト・マニュアル等の備品がないなどと不満を述べる。

原告は、平成四年八月頃、三谷営業部長に伴われ、コンピューター技術専門学校である富士通学院の講師としての仕事を受注するべく、面接に赴いたが、原告は、その際、前に就職していた職場の悪口をいうなど非常識な行動に出たため、富士通学院側の信頼を得られず、右商談は成功しなかった。

〈3〉  その他、原告は、ビジネス・スーツやビジネス・シューズを着用しない、冬季にオーバーやマフラーを着用したまま就業する、勤務時間外に昼食をとる、勤務時間中に新聞を読む等の常識に欠ける行動に出ることがあり、新井所長代理らからしばしば注意を受けていたが、改まらなかったので、同所長代理は、平成五年二月二二日には、「守るべき就業規則」(〈証拠略〉)との文書を東京営業所で配付した。

また原告は、被告会社から外国人登録証の提示を求められたにもかかわらず、これを提示したことがなかった。

2  右認定事実によれば、原告は、被告会社から本件雇用契約書に定められた業務を命じられても、何かと理由にならない理由を述べてこれを拒否し、ほとんど仕事らしい仕事をしていないといわざるを得ず、上司である新井所長代理らから勤務態度につき再三注意を受けても、意に介さず、自らを正当に処遇していないとして不満を抱き、被告会社の不当性ばかりをあげつらう態度に出るなどしているものであって、右行動は、被告会社の就業規則二二条〈1〉h所定の「業務に関する命令、もしくは指示に不当に反抗し、あるいは社内規則を無視し、職場規律を著しく乱したとき」との(普通)解雇事由に該当するものというべきである。

そして、本件解雇の合理性を疑わせるような事情は、本件全証拠によるもこれを認めることができない。

3  よって、被告が平成五年六月四日にした、同年七月四日をもって原告を解雇するとの意思表示は有効なものというべきである。

そうすると、原告が同年七月五日以降も、雇用契約に基づき被告会社の従業員としての地位を有することの確認を求める請求(請求の趣旨1項)、無理な解雇をやめ、平成六年八月五日まで一か年雇用契約の継続を求める請求(請求の趣旨2項)、本判決言渡しに至るまで、原告を一般職員として取り扱うことを求める請求(請求の趣旨6項)は、いずれも理由がなく失当である。

また、被告は、本件解雇後である平成五年七月六日に原告が被告会社に残置していた私物を運賃受取人払いで原告宅に送付したが、解雇後は、原告にその私物を引取る義務があると解せられるから、右運賃一一三〇円の支払を求める請求(請求の趣旨7項)も失当である。

十  以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田肇)

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